あなたにとって「丁寧に仕事をする」とは、どういうことでしょうか?どういう仕事を「丁寧な仕事」と考えるでしょうか?

一般的な印象、イメージでは、日本人は「丁寧な仕事」が得意である、と言われます。
丁寧さと別に、仕事には「速さ」が求められることがあります。そして、表面的な判断では、「丁寧さ」は「速さ」を犠牲にすると考えられたりします。
それとは逆に、「丁寧」であれば速さは二の次で良い、と考える人もいます。

最近は、「働き方改革」が盛んに言われ始め、仕事の生産性・効率性の高さ、速さ、無駄を省くことを重視する傾向が強いように思えます。
「丁寧な仕事」の中に、生産性・効率性の高さ、速さ、無駄を省く、ことを両立させることは難しいのでしょうか?

家電のお医者さん、今井和美さん

家電を修理する

以前、NHKの「プロフェショナル 仕事の流儀」という番組で、電器店主の今井和美さん(60歳)という人を紹介していました。
番組タイトルは、『家電の“命”最後まで』です。

お店は、三重県の津市にあります。とてもよく笑う、家電修理のプロフェッショナルです。
家電修理の成功率は、約60%が平均値らしいですが、驚くことに今井さんは、今まで請け負った修理の95%以上を成功させてきたそうです。
この数値だけで、私はとてもビックリでした。

修理事例 その一:18年前から使っている食器洗い乾燥機

食器洗い乾燥機

番組内で、今井さんの仕事振りとして紹介されたのが、ある家庭で約18年使われていた食器洗い乾燥機でした。故障の内容は、食器を洗った後の水が上手く排水されない、というもの。
また、修理ができなければ、システムキッチンをまるまる新製品に買い替える必要があり、予算の見積もりは50万円ほどです。

今井さんが調べたところ、故障の原因は、水位を感知するセンサーがさびて、ボロボロになっていたことでした。
ただ、このセンサー部品は、既に生産されていない物・・・
そこで今井さんは、修理に役立ちそうな部品を組み合わせて、このセンサー部品の自作に取り掛かったのです。

ですが、困難は続けてやってきます。

センサー部品の中核をなすIC部品の規格がさびのために解らなくなっていました。
すると今井さんは、このセンサー部品の回路図を自分で設計し、IC部品の規格の検討をつけ、それに基づきセンサー部品を自作し、見事修理を完成させたのです。
修理代は5万円でした。脅威の技術と価格です。

ここでさらにビックリしたのは、今井さんは製品全体を細かく見直し、できるだけ長く使ってもらうために、他に修理する部分はないか探し始めたのです。
そうすると、センサー部品を格納していたプラスティックケースにわずかな亀裂が入っていることを見つけ、それが食器洗い乾燥機が壊れた真の原因であると突き止め、そのケースを修理したのです。
その他の部分も丁寧に調べ、より長く使ってもらえるように手当てをしていました。

今井さん曰く「予防修理」らしいです。
目先の修理だけでなく、より先のことを考えた仕事振りに番組を見ていて感激しました。

依頼者は、長年使用した愛着のある食器洗い乾燥機を再び使えるようになり、費用も10分の一ほどに収まったので大喜びです。

修理事例その二:40年前から使っているカセットデッキ

オーディオカセットデッキ

番組内で、今井さんの仕事振りとして紹介されたものをもう一つ。
それは、音楽好きの方が40年前から使っているオーディオカセットデッキでした。

オーディオカセットデッキと言われても、30代以下の人は解らないかもしれませんね。CDの前に音楽を再生するものとして主流だったオーディオ機器です。

今井さんは、千点以上ある部品を丁寧にチェックしていき、まずはモーターの不良を見つけました。
丁寧に洗浄して、無事、モーターが回転するようになったのですが、機器に設置すると回転せず・・・

するとまた、今井さんは千点以上の部品をチェックして
まさしく「直して、直して、直して」という感じです。
そして、新たな不具合を発見し修理をすることで、無事に音楽を再生できるようになったのですが、しばらくするとまた、音楽を再生できなくなり・・・

するとまた、今井さんは千点以上の部品をチェックして
「直して、直して、直るだけ、直る限り直して」見事に修理を完成させました。

そして、いつもの様に「予防修理」も行い、4日後に依頼者のもとにカセットデッキを届けたのです。
依頼者が若い頃に聴いていた音楽を再生した時の嬉しそうな顔。
私も音楽が大好きなので、自分のことのように感じました。

今井さんの経験、そして語られた言葉

今井さんは、家電を修理するときに設計図を見ないそうです。見なくても、たいてい製品の構造が解るようです。
そして修理に必要な部品が生産されていなくても、自分で作ることができ、応用力の高い修理対応ができます。
それには、裏付けになる2つの要因があるのです。

要因その一:家電の修理をするときは、経験したことがない製品を優先する

「似たような物、自分が解る物ばかりを修理すれば効率は上がる、でもそれでは面白くない」と、今井さんは話していました。
新しいことに挑戦するのは、大きなことであれ小さなことであれ、なかなか大変です。でもそれを恐れずに挑戦し、最初は非効率なところがあったり、つまずいたりすることがあっても、挑戦を積み重ねていくことで、他に類を見ない技術力が蓄積されていったのでしょう。

要因その二:今まで修理した製品1万件以上のデータを蓄積している

今井さんは、1万件以上に及ぶ過去の修理データを見える化して蓄積していました。数が多いだけでなく、修理した製品の種類の多様性もかなりのものでした。
恐らく、新しい修理をするときなどに参考にしているのではないかと思います。
常に新しいことにチャレンジし、それを自分のノウハウとして蓄積し、繰り返し見直したり参考にすることで、設計図を見なくても製品の構造が解るレベルに達したのでしょう。

本当に凄いことです。

それから今井さんは、「なぜ修理をするのか?と聞かれても、なぜ息をするのか?という問いに答えるのと同じぐらい返答に困る」と語っていました。

「自分は家電を修理するために生まれたきたのかもしれない、だから息をするように、ごく当たり前に修理をする、特に意気込みはなく、普通に修理をする」

私はこれを聞いて、家電を修理することが心の底から好きなのだ、と感じました。
もちろん、修理をしたときにお客様が喜んでくれることがとても嬉しい、ということもあるのでしょう。

「プロフェッショナルとは?」に対する今井さんの回答

プロフェッショナルな職人

「お客さんの要望に必ず応える、応えられるように一生懸命に努力する人」

番組恒例の最後の質問に、今井さんはこのように答えていました。

本当の意味で丁寧な仕事とは、どのような仕事なのでしょうか?
丁寧さと速さを両立させることは、大変難しいことなのでしょうか?

私は、今井さんの仕事振りを見て「とても丁寧な仕事をしているな」と感じると同時に、「とても誠実な仕事をしているな」と感じました。

誠実な仕事をするために、日々挑戦や努力をして経験や技術を高める。
豊富な経験や技術があるから、仕事の段取りもレベルの高いものとなり、取り組み方や解決策も筋の通った効率性の高いものが見えてくる。
そうなれば、きっと速さを伴った丁寧な仕事ができるのではないでしょうか?

「息をするように修理をする」・・・とても印象に残る言葉です。
「好きな仕事をする」、よりもさらに高いレベルの、自然体でゆとりのある仕事をされている気がします。

お客様の要望に応え、そして本当に丁寧で誠実な仕事とは、そのような境地にあるのかもしれません。

※引用元:NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』2019年7月23日放送

この記事を執筆・編集した人 鈴木 勉 2019/11/24

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